晴空便り

エッセイスト・生け花アーティスト・末富晶の晴れた空へつながるブログ

みそひともじの記憶

 

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 生け花<ガーベラ・アワ・ハラン・レモンリーフ> 末富晶

 

 

 

10月になりました。

 

 

まだ一年を振り返る時期には早すぎるのだけれど。

 

 

今年に限っては、

本当に色んなことがあったなぁと

この辺りで振り返っても許されるのではないか。

 

そう思えるくらい、本当に色んな変化と出来事に満ちた年です。

 

 

やはり、本を出版させていただいたことは大きく、

あれからたくさんのことがあったので、なんだかもう半年くらいは前のことに感じるのですが

不登校でも大丈夫」の刊行から、数えればなんとまだ二か月も経っていないのですね。

 

たくさんの方々が、感想を届けてくださり、

出版社にもお手紙を送っていただき、

お一人お一人の心に届いた瞬間を垣間見て、

じんわり涙することも多々あります。

 

きっと言葉にせずとも、色んなことを感じながら読んでくださっている方もおられるのではないか…

 

言葉にしてくださる方がおられることで、そう思え、

とてもとても、ありがたい気持ちです。

 

 

言葉にしなければ伝わらないよ、とか、

何事も包み隠さず、言葉にするのが良い、とか

 

時折言われたりもしますが。

 

多くの人が感じているように、

一番大切な心の奥のある部分は、

恐らくきっと、言葉にはできない。

 

私たちが持つ「自分」という感覚はとてもとても奥の深いもので、

言葉にして他の人と分かち合えるのは、そのほんの一部の表面にすぎないのかもしれません。

 

ほんの少しの、表面の手がかりから、

お互いの奥に繋がる何かを見出して。

 

反響しあい、

互いをうつす、鏡のようになる。

 

本を出すということは、もっとこちらからの、一方通行な行い、

こちらが「届けて」、誰かが「受け取る」。

そういうものなのかと思っていたけれど、

 

実際には受け取られた後にまた、こちらに返ってくるたくさんのものがあって。

 

終わることのない、波が生まれたようにも感じています。

 

 

 

実はほんの数日前、祖父が93才でその生涯を終え、

 

そのことも私と家族にとっては、大きな変化の出来事となりました。

 

 

祖父が話してくれたことで、一番の思い出は何だろうと。

 

今朝がた、ぼんやりと思い出していたのですが。

 

 

医師として働いていた時のこととか。

 

戦時中、防空壕の入り口で診察をした話とか。

 

子どもの頃、その時代の男子としてはとても珍しく、ピアノを習っていて、

譜面を風呂敷に包んで先生の元へ通っていたこととか。

 

私たちが行くとよくそのピアノを聴かせてくれたこと。

おじいちゃんの弾く「乙女の祈り」の音色の懐かしく心地よい響き。

 

色々と思い出されたのですが、

中でも印象的なものに、

 

学生時代、自分の父親(私の曽祖父)と離れて暮らしており、

お互いの息災を確かめるために、

三十一文字の短歌で葉書をやり取りしていた。

 

という話があります。

 

例えばこんな風に…と、おじいちゃんが送ったという短歌を一つ教えてもらったのですが、

 

内容は、

 

 

 

 梅とても さすが寒さに耐えかねて 今宵つつまる如月の綿

 

 

 

 

 

2月の寒い時期、梅の花も耐えかねるのか、雪の綿を身にまとっているよ。

 

 

というもので。

 

最近起こった何か特別な出来事を綴るでもなく、

それどころか「我が身」の存在が一言もない一文で

それでもどこかで深く通じ合っていたのだろうと察せられ、

たいそう驚いたのです。

 

 

すべてを言葉にしなくとも、

 

寒い中、若い祖父がふと立ち止まってその梅を見た時の、澄んだ空気、

凛とはりつめた、静かな冬の夜、

深々と冷え込む雪の中にそれでも、一輪の春の訪れを感じただろうこと。

 

祖父の暖かな息が、白く現れては消えるさまも、

不思議と思い描くことができる。

 

 

 

祖父も曽祖父も、もうこの世の人ではなくなってしまったけれど

そうしたやり取りの中にそれぞれが見ていた世界は

私の世界の奥の方と、どこかでつながっているものなのではないか。

 

 

 私たちの「ほんとう」は、

そんな言葉に出来ない世界の方向にこそ、あるのではないか。

 

 

 

そんな風にも、思えたのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 だんだんと秋が深まり、

涼しく感じる日も多くなってきました。

 

今年もまたもう少しで、美しい紅葉の時期がやってきますね。

 

みなさまどうぞそれぞれに、

良い日々をお過ごしください。

 

 

 

 

    末富 晶

 

 

 

 

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